屋根瓦

 

Tさんの家は台風で屋根に被害が出た。
災害保険の申請のために、Tさんは隣の家の二階に上がらせてもらって自宅の屋根の被害状況を写真に収めた。
裏返った瓦、剥がれて落ちてしまった瓦、めくれはしないものの浮いてしまった瓦など、少なくない被害があり、Tさんはそれをスマートフォンのカメラで撮影した。
自宅に戻って写真を確認していたところ、よくわからないものが写っていることに気がついた。
浮いてしまった瓦の辺りを撮影した一枚に、何か箱のようなものが写っている。
瓦の大きさに比べるとおそらくは手のひらサイズくらいの、黄色い立方体だ。それが浮いた瓦の上に載っている。
撮った時には気が付かなかった。目の前にこんなものがあれば気づかないはずはなかったのに。
なんだこれは、と思いながら同じアングルで直後に撮った次の写真を見ると、こちらにも同じものが写っている。
だが位置が違う。二枚隣の瓦の上に移動している。
箱がひとりでに動いている? そもそもこれは箱なのか?
次の写真も同じアングルだが、こちらにはもう箱は写っていなかった。どこかに行ってしまったのだろうか。
保険会社には箱が写っていない写真を提出した。


箱が写っている写真は後で友人に見せてやろうと思っていたところ、後でもう一度見てみたらどの写真にも黄色い箱などどこにも見当たらなくなっていたという。