仏間の写真

東京で勤めていた会社が倒産して職を失ったTさんは富山の実家に戻った。
地元で就職先が見つかるまでは実家に居候することにしたのだが、高校生の頃までTさんが使っていた部屋はもう物置にされていた。
仕方がないのでTさんは仏間に寝起きすることにした。
仏間の畳に布団を敷いて横になると、欄間に掲げられた写真の額が視界に入る。
曾祖父母と祖父母、そして若くして亡くなった大叔母の顔写真だ。
ある朝、Tさんが布団から起き上がるとなぜかこれらの額が欄間から降ろされて壁に立てかけて並んでいる。
両親に尋ねてみてもそんなことはしていないという。確かに、寝ている周りで額を下ろす作業をすればTさんも目を覚ましそうなものだが、全く気が付かなかった。
むしろ両親からはTさんがやったものと思われて、元に戻しておけよと言われる始末だ。
渋々Tさんは額を元通りに欄間に掛けておいたが、その数日後にも同じことが起きた。
やはり朝になると額が布団の脇に立てかけられている。
なんだか遺影から急き立てられているような気がしたTさんは、気長にやろうとしていた就職活動に本気で取り組むことにした。
それが伝わったのか、再就職が決まるまでの間、額が欄間から下りていることは二度となかった。