草むしり

高校生の頃、Mさんは友人たちと学校をサボって遊び歩くことがよくあった。
ある日の午前中も授業に出ずに公園で友人たちと煙草を吸っていた。
この公園は学校からも離れているし、住宅地に近い割にはあまり人の姿もないためMさんたちには都合が良かった。
そうしてMさんたちが公園の隅のベンチで煙を吹かしながら駄弁っていると、視界にふと動くものが入った。
近くの植え込みで、いつの間にかおばあさんが一人しゃがんで草むしりをしている。
特にMさんたちを見咎めるような様子もなく、黙々と草をむしっているので、Mさんもすぐに気にならなくなった。
それから数分してふとまた植え込みの方に視線を戻すと、今度はおばあさんが二人に増えていた。
同じような格好をしたおばあさんがこちらに背を向けて、二人並んで草をむしっている。
しかし同じようなというか――全く同じ格好にしかみえない。顔は見えないが、体格も髪型も服装もそっくり同じだ。
双子かな? とぼんやり思いながらMさんはまた視線を友人たちに戻した。
すると友人たちはいずれも目を丸くして、一点を見つめている。彼らの指から煙草がぽとりと落ちた。
つられてMさんもそちらに目を向けると――おばあさんは五人に増えていた。
たった今まで二人だったのに、視線を外したほんの一瞬でその後ろ姿が五つになっている。しかもどれも同じ格好で、こちらに背を向けて草むしりを続けている。
これはまずい。何かよくわからないが、普通ではない。
Mさんたちは泡を食って公園から逃げ出し、それ以来その公園には行かなくなったという。