続・ススキ野原

Sさんが小学生の時の話。
当時、Sさんが友達と遊ぶ時によく行っていた場所があった。
もとは倉庫かなにかが建っていた敷地らしかったが、当時はもうすでに建物の基礎らしきコンクリートの地面がむき出しになっているだけで、その周囲を砂利とススキが取り囲んでいるような空き地だった。
その日も数人で空き地に行き、サッカーやキャッチボールをして遊んでいた。
そうしているうちにだんだん日が傾いてきて、そろそろ帰ろうかと友達の一人が言い出した。
そうだな、そうしようか、と頷いたところへ少し離れた場所から妙な声が響いてきた。
むおおおーん……。
布団に顔を押し付けながら叫んだような、くぐもった大声だ。
みな一斉に声のした方を見た。
コンクリートの基礎が終わっているその向こう、高く伸びた枯れススキの上に大きな木の枝のようなものが伸びている。
夕日で逆光になったそれは、どうやら逆立ちした人間の脚のようだった。
なんだあれ。
一人が呟くと、それはススキの中からガサリと音を立てて出てきた。
下着のシャツとパンツだけを身に着けた、ガリガリに痩せたおじさんだった。
おじさんは普通の逆立ちではなく、頭を一番下にしたまま手を地面に付けないで動いていた。
両腕を真横に開き、脚も開いてまるで「大」の字を上下逆にしたような姿勢のまま、滑るように移動している。
……人間にできる動きとは思えない。
Sさんたちの視線が釘付けになる中、逆さまのおじさんはSさんたちを気にする様子もなくススキの間をフラフラと行ったり来たりした。
うわあーっ、と声を上げながらSさんたちは我先にと空き地から逃げ出し、その後は二度とそこで遊ぶことはなかったという。


――という話をSさんから聞いたのだが、そこでふと思い出したことがあった。
私は以前Eさんという人の話を元に「ススキ野原」を書いた。
その話の舞台であるススキ野原も、倉庫に隣接していた。
Sさんの話の中でも、倉庫の跡地をススキ野原が囲んでいる。
作中で地名を明かしてはいないものの、実は同じ市内の話でもある。
もしやと思いSさんに詳しく場所を尋ねてみると、なんと二つの話は同じ場所の出来事だということが判明してしまった。Sさんの体験はEさんの体験からおよそ五年ほど後のことだが、不審な出来事が同じ場所で起こったのはただの偶然だろうか……?
なお、Sさんによれば現在はもうそこは空き地ではなく、駐車場になっているという。
今でも何か変なことが起きてないといいんですが、と言ってSさんは苦笑いした。