掘り出し物

主婦のNさんが自宅の庭の草刈りをしていた時のこと。
五歳になる長男がすぐ傍で遊んでおり、初めはゴムボールをついていたが、すぐに飽きたらしく土いじりに移っていた。
息子を視界の端に収めながらも無心に草を刈っていたNさんだったが、突然その息子が大声で呼んできた。
「ママ、顔!顔!」
えっ、顔?
咄嗟に自分の顔に手をやったNさんだが、息子はこちらを手招きしながらしゃがんで地面を覗き込んでいる。
どうもNさんや息子の顔のことではないらしい。怪我をした様子でもなさそうだが、一体なんだというのか。
Nさんが駆け寄ると息子はしゃがみこんだまま地面の穴を指差した。
「顔が出てきた!」
息子が掘ったらしき直径三十センチほどの穴には、ぴったりはまったように人の顔が現れていた。
抜けるように白い肌の、整った目鼻立ちをした大人の顔だ。
両眼や口はぴったり閉じているが、今にも目を開いて喋りだしそうな生々しさがある。
やだ、なにこれ気持ち悪い……お面?こんなのが庭に埋まってたの?
戸惑いながらも軍手をはめた指でその顔に触ろうとしたその時。
やめろ!
真上から大声がした。
咄嗟に見上げたが、周囲にはNさんと息子以外誰もいない。
低い、男の怒鳴り声が確かにしたのに。
今のは誰だったのだろう、と思いながら視線を地面に戻すと、穴の中からあの白い顔は消え失せていた。
見回してもそれらしきものはどこにもない。
本当にあれ、お面だったの……?思い返してみるとひとつ奇妙なことに気がついた。
あの顔は土の中から掘り出されたにしては全く汚れていなかった。だから尚更穴の中で肌が白く見えていたのだ。
なぜそうだったのかは見当もつかないが、まともなものではなさそうだとNさんは思った。
息子に詳しいことを聞いてみても、穴を掘っていたら顔が出てきたとしかわからない。
とにかくまた変なものが出てきても嫌なので、Nさんは息子に当分庭で穴を掘らないように言い聞かせたという。