修学旅行の夜

Rさんが高校の修学旅行で京都に行ったときのこと。
割り当てられた部屋で風呂の順番待ちをしていたところ、Fという同級生が飲み物を買ってくると言って部屋を出て行った。
しかし風呂の順番が回ってきても戻ってこない。
後から来るだろ、と先に大浴場に行ったRさんたちだったが、風呂を上がってからも一向にFは来ない。
あいつ何やってんだろうな、と話しながら部屋に戻ってみてもFの姿はない。
他の部屋にでも行って遊んでるんだろう、とあまり心配していなかったが、それから三十分ほど経った頃にようやくFが部屋に戻ってきた。
しかしその様子が変だった。
恐る恐るといった調子でゆっくりと部襖を開け、隙間から覗き込んで部屋の中を見回してからやっと安心したように入ってきた。
どうした、先生にでも追われてるのか?そう尋ねると、違うんだという。


Fの話では、彼は宿のロビーで飲み物を買ってからすぐに部屋に戻ったのだという。
しかし襖を開けてみるとそこは全く別の部屋だった。学校の教室くらいの広さがあり、壁も天井も真っ白で明るい。
床には一面に布団が敷き詰められていて、どの布団にも誰かが寝ている。
見回してみると寝ているのはみな知らない老人で、寝ているのか何なのか、誰ひとりとして動かない。
間違えた!
慌てて襖を閉めたがやはりそこは自分の班の部屋だ。
じゃあ今のは何だったんだ。
もう一度恐る恐る襖を少しだけ開けて中を確認してみると、部屋もRさんたちも元通りになっていたのだという。
しかしそれでは辻褄が合わない。
Fの話が本当ならば、Rさんたちが風呂から戻ってきた時に部屋の前で顔を合わせていたはずだ。
だからFの話をRさんはじめ他の同級生も本気にしなかった。


ただ、修学旅行が終わってからあることがわかった。
同じ部屋で寝ていた同級生たちが、それぞれ別の奇妙なことを体験していたというのだ。
ある者は寝ている間に誰かが部屋中を歩きまわる音を聞いたといい、ある者は部屋にいる間ずっと線香の匂いを感じていたという。
Rさん自身も後から思い返すと、夜中にトイレに行くのに起きた時、布団の数が少ないような気がしたことを思い出した。
眠かったのであまり気にせずにそのまま寝たのだというが、確かにそのときは部屋の中央になぜか布団のない隙間がぽっかりと空いていたのだという。