車庫の中

細かい雨が降る夜のことだったという。
Kさんが仕事から帰ってきて、いつものように車を自宅の車庫に入れようとした。
車庫の前の路上で車を降りると、車庫のシャッターを両手で掴んで引き上げる。
その途端、強烈な違和感を覚えて身構えた。
目の前、車庫の中にあるはずのないものがある。
そこにはなぜか、既に車が入っている。
ただの車ではない。
見慣れた自分の車だ。
咄嗟にナンバーも見たので間違いない。
そしてその運転席には、誰かが座っている。
車庫の前に停めた車のテールランプに赤く照らされたその顔は、Kさんと同じ顔をしていた。
無表情にKさんの方を見つめている。
その顔と視線が合った瞬間、車庫の中の車が突然Kさんの方に迫ってきた。
滑るように音もなく動いたそれは、急なことで動けないKさんの体をすりぬけて、背後の闇に消えていった。


時間にしてほんの十数秒ほどの出来事で、Kさんはしばし呆気にとられていたが、気を取り直して辺りに目をやった。
すると車庫の床のコンクリートには、濡れたタイヤの跡が二筋はっきり残っていたという。