土の下

中学校で運動会の前日に準備をしていたときのこと。
その学校の運動会では選手入場門の支柱として、丸太を二本立てるのが毎年のやり方だった。
そのためにスコップで校庭に穴を掘っていた生徒たちが、なぜか手を止めて穴の中を眺めている。
地面に膝をついて穴に首を突っ込むようにしてまで、熱心に穴の中を覗きこんでいる。
近くにいた先生がどうかしたのと聞くと、生徒たちは黙って穴の中を指差す。
穴は幅30センチ、深さ50センチくらいに掘られていたが、なぜか底の方が薄明るい。
そればかりか、何か一面にゆらゆらと動いて見える。
これは何?
不思議に思った先生は、先程生徒がしていたように膝をついて穴に顔を近づけてみた。
すると立って見ていたときとは違って、穴の底がひどく遠く見える。
はるか下に見えるそこは穏やかにうねりながらきらきらと光を反射している。
土の下に水面がある!そんな馬鹿な?
井戸を掘り当てた?いや、そんなに掘ったはずがない。そもそも井戸だとしても、水面が明るく見えているのはおかしい。
混乱しながらも目を離せずにいると、更に奇妙なものが現れた。
水面の上を、細い尖った形の小さいものがゆっくりと進んでくる。
船だ。
細かい形はよく見えないが、中央付近から黒い煙をたなびかせているあたり、それなりに立派な船のようにも思える。
地面の遥か下に海だか川だかがあり、そこに船が通っている。いかにもそんな様子に見えた。
――先生、どうしよう?
生徒の言葉にはっと我に返った先生は気を取り直して立ち上がったが、やはり足元に見えるものがどういうことなのか皆目見当が付かないので、どうするべきか判断などできない。
その時、ひとりの生徒がふざけて土を穴の中に蹴り落とした。
大した量の土ではなかったが、その途端、底の薄明かりは見えなくなり、水面などすっかり消え失せてしまった。
もう一度穴の底を掘っても、土しか出てこない。
とにかく穴は掘れたので、すぐに丸太を立ててその年の運動会も無事行われたという。