阿修羅クライン

春と修羅、と昔から申しますように、修羅すなわち阿修羅は春の季語であります。
そんなわけで春風駘蕩、絶好の修羅日和のもと、東京上野は国立博物館で開催中の「国宝 阿修羅展」に行って来ました。まあ行ったのは先週なんですが。
おりしも上野公園では桜が満開、花見客で賑わっていました。平日だというのに。平日に花見をする人と平日にいいとも会場に行く人はどういう人であるのか、しばし考えつつ阿修羅拝観です。

賑わいについて

まず驚いたのがその盛況振り。
開場二十分後の時点で四十分待ちとか何とか入り口でアナウンスが。でも並んでたら十分くらいで入れたけど。
確かに今回の目玉、興福寺の阿修羅像はかなり有名な尊像なので納得の集客力です。客層は年配の方が多かったように見受けられました。
ともかく国立博物館で行列ができているのを初めて見ました。
みんなそんなに阿修羅が好きですか。ア、アタシだって好きなんだからッ!

内容について

今回の展覧会では興福寺から阿修羅を含む八部衆立像のほか、十大弟子立像*1、四天王立像、薬王・薬上菩薩立像などなど錚々たるラインナップの数々。しかも露出展示でガラスケースなし。
そのほかにも中金堂跡からの出土品もずらり。
かなり見ごたえのある催しとなっています。
特に目玉の阿修羅立像に関しては他の八部衆立像と隔離して別の部屋の中央に単独で配置されており、全方位から眺められる仕掛けとなっていました。三方向に向いた尊顔をそれぞれの正面からじっくり見られるというわけです。
八部衆立像を今回初めて間近で拝観したのですが、写真ではわからなかった細部や背後の様子も見ることができて満足でした。写真だと全体的に灰色と茶色とが入り混じったような色にしか見えないわけですが、近くで見ると帯やら甲冑の縁やらに貼られた金箔が結構残っているのがわかったりします。
個人的に見所なのは、八部衆十大弟子など天平時代の作風と、四天王における鎌倉時代の作風が比べられる点でした。天平の作品は優雅な細身で直立姿勢なのに対し、鎌倉の作品は姿勢に変化のあるものも多く、手足も胴体も太めで力強く作られています。
そういった違いは単に四百年ほどの時間の経過から来ているのかもしれませんし、或いは鎌倉という武士の時代では力強さが好まれたということかもしれません。
余談ですが図録の装丁が妙に豪華。値段はいつもの特別展と同じ位なのに。内容も各尊像の三方向からのアップ写真が掲載されていたり解説も詳細であったりと、かなり充実しています。

海洋堂フィギュアについて

今回の展覧会では海洋堂がタイアップとして阿修羅像フィギュアを生産、会場にて販売ということだったわけですが、私が行った時には既に影も形もなし。予算が浮いたのでついでに科学博物館で開催中の「大恐竜展」も見てきました。南半球の恐竜化石がずらり。へー、ゴンドワナでは角竜は見つかってないんだ。初めて知った。
帰ってから阿修羅フィギュアについて調べてみたら初日の午前中に売り切れ、追加生産分も要予約とか。展覧会終了後も継続生産すれば転売屋が涙目になってめでたいのではないか。実際のところ、八部衆フィギュアをシリーズ化したら人気が出ると思うのですが如何。
とはいえ、『今昔物語』巻十四第七話にいわく、「われ生たりし時、仏の直を以て衣食とせし故に、死てこの小地獄に堕て堪えがたき苦を受く」、信仰心も薄いのに仏像を売って収入を得ると堕地獄の苦しみを受けるとのこと。徒に仏像を濫造するのもまた考えものです。
本来は仏教では地獄とか霊魂とかいうものを原理としては否定しているので、何をどう売ろうが死後の問題ではないわけですが、まあ仏像ですから希少な方が有難味もあろうというものですね。

*1:現存する六体