土器

三十年以上前、Eさんが小学生の頃のこと。当時会計事務所に勤めていたお父さんが、ある晩上機嫌で帰ってきたかと思うと、いいものを拾ったと言ってビニール袋に入ったものを取り出した。ひと目見たときは土のかたまりかと思ったが、よく見るとそれは土器の破…

懐中電灯

Yさんは高校のバレー部で練習中に脚を挫いた。保健室で手当をしてもらったが、痛くてひとりで帰れそうもない。家から車で迎えに来てもらうまで、保健室で休んでいることになった。ベッドに横になっていると、校舎内が随分静かに感じられた保健室は運動部が活…

腐し婆

三十年ほど前、栃木のある村でのことだという。村で農家を営んでいたNさんが、ある日知人の畑を手伝って帰宅する途中でのこと。田畑の中のあぜ道を歩いていると、前から誰かがやってくる。腰の曲がった小柄な老婆だが、その割には健脚なのか、早足くらいの速…

偶然

偶然の一致という言葉がある。遠く離れた場所で、相次いで似たような出来事が発生したり。珍しい出来事があったすぐ後に、再び同じようなことに出くわしたり。関係のないはずのふたつの出来事に、人は時に共通点や因果関係を見出してしまうことがある。これ…

夢中の手

Fさんは幼い頃から何度も同じ夢を見たという。 ふと気がつくと頭上に誰かの手のひらがあり、Fさんの頭を押さえつけようとしてくる。必死に避けようと頭を反らすが、手は執拗に追ってきて振り切れない。やめて、誰か助けて、ともがいているうちに目が覚めるが…

山笑う

今から50年以上前、Oさんの祖父は福島の山中で炭焼きをしていたという。Oさんが物心ついた頃にはもう辞めて街に住んでいたが、Oさんがせがむと祖父は喜んで当時の話を色々語ってくれた。ある時祖父はOさんにこんな話をしてくれた。 誰にも会わないでひとりで…

ばあちゃん

大学生のMさんが友人たちと川原でバーベキューをした。車で山の中のキャンプ場に行き、そこに流れる川のほとりで肉を焼いて飲み食いし、日帰りする予定だった。六人で車二台に乗り、午前十時くらいにはキャンプ場に着いて食事の支度を始めた。バーベキューは…

満天の星

Jさんが大学生のときのこと、日没後に友人のアパートに向かって自転車を走らせていた。途中に線路があり、踏切を渡る。遮断器はちょうど上がっており、スピードを緩めないまま目で左右だけ確認して線路を越えた。するとその途端に頭上でピカピカッと強い光が…

あけましておめでとうございます。

旧友

漁師のWさんの話。海で漁をしていると稀に水死体を発見することがある。Wさんも今まで三度ほど遭遇したというが、その初めてのときのこと。まだ漁師として駆け出しの頃で、小さい漁船をひとりで操り、沖に出て魚を獲っていた。その日も明け方に漁をして朝の…

カレー

Rさんが若い頃に一人暮らしをしていた頃の話。アパートの部屋で食事の支度をしていたところ、玄関のドアを叩く音が聞こえた。何気なくドアを開けると、人の姿はない。しかし足元に茶色の犬がいて、当たり前のような顔をして玄関から入ってきた。どういうわけ…

煙蛇

Yさんが職場で休憩中のこと。いつものように裏口を出てすぐのところで煙草に火を点けた。一口吸ったところでふと気がつくと、煙草の尖端から出る煙がなぜか上に昇らず、下の方にばかり流れていく。煙は拡散せずに、一本の筋状にまとまったまま足元のコンクリ…

もやもや

大学生のEさんが散歩がてら近所のコンビニに行った帰りのこと。雲ひとつなくすっきり晴れた気持ちのいい日曜日で、風もなく穏やかな中をのんびり歩いた。いい陽気のせいか、歩いていても周囲の何もかもが鮮やかにくっきりと見えるような感覚があり、こんなに…

新しい彼女

Kさんが大学生のときの話。友人のM君に彼女ができたというので紹介された。アルバイト先で知り合ったというその女の子は気さくで明るい性格で、Kさんや他の友人たちともすぐに打ち解けた。付き合い始めたばかりだからかM君との仲も良好で、傍から見ていても…

濡れ手

Nさんはある夜に夢を見た。近所の道を歩いていると、すぐ近くを小学生くらいの女の子がもっと幼い男の子と一緒に歩いている。すると後ろから軽自動車が走ってきた。女の子はさっと道の向こう側へと渡り、男の子が数秒遅れてその後を追った。男の子は軽自動車…

レッスン中

小中学生向けの英語教室で事務のアルバイトをしていたKさんの話。一階の事務室で仕事中、玄関正面のカウンターに女性がひとり現れた。教室に通ってきているS美ちゃんという小学生のお母さんだ。Kさんがそのお母さんの顔を見るのはしばらくぶりのことだった。…

携帯がない

Sさんが茨城から兵庫に単身赴任中のこと。毎日、仕事終わりに妻の携帯にメールを送ることにしていた。その日もスマートフォンから簡単な文面でメールを送信し、アパートに向かった。ところがいつもはすぐに来る返信がその日はなかなか来ない。アパートに着く…

出ていったもの

Eさんは大学生の頃からよく金縛りになった。寝ているとふっと目が覚める。意識ははっきりしているのに体が動かない。初めてそうなった時には動揺したが、また眠って起きたときには体が動くようになっていたし、回数を重ねるごとに慣れてしまった。体が動かな…

緑の棒

十年ほど前、Kさんが中学生の頃に通っていた塾で、授業中に何かの流れで先生がこんな話を始めた。 今日ここに来る途中で、変なものを見たんですよ。車で走ってると、なんとなく視界の端に緑色のものがちらちら見えるような気がするんです。気のせいかなと思…

印刷所

印刷会社で働くFさんは会社の二階にある事務室で仕事中、強い眠気を覚えた。寝不足だったわけでもなければ、特に疲れていたというわけでもない。調子がおかしいなと思いつつ、同僚にトイレに行ってくると告げて事務室を出た。トイレの手洗い場で顔を洗い、つ…

屋根瓦

Tさんの家は台風で屋根に被害が出た。災害保険の申請のために、Tさんは隣の家の二階に上がらせてもらって自宅の屋根の被害状況を写真に収めた。裏返った瓦、剥がれて落ちてしまった瓦、めくれはしないものの浮いてしまった瓦など、少なくない被害があり、Tさ…

サンタさん

二十年ほど前のクリスマスイブのこと。Kさんは自宅で四歳の娘と夕食を取っていた。夫は仕事で遅くなるということで二人だけだったが、せっかくのクリスマスなのでケーキくらいは用意した。娘はケーキを頬張ってすっかりご機嫌だったが、半分くらい食べたとこ…

うろの中

幼い頃から小動物が好きだったOさんはよく虫取りに行った。中学校の裏手が森になっていてそこで虫がよく取れるので、Oさんは頻繁にそこへ行っていた。 小学生の頃のOさんが夏のある日この森に行ったが、どうにも虫が見当たらない。石をどかしても落ち葉をか…

洞窟

Yさんが彼氏と二人で旅行したときのこと。ホテルに泊まったその夜、Yさんはふと目を覚ました。時計を見るとまだ深夜だ。なぜこんな時間に目が覚めたのだろう、疲れていたから眠りが浅かったのだろうか。そんなことを考えながらまた眠ろうと思ったが、ふと違…

防災倉庫

Nさんの実家のある街に防災倉庫と呼ばれる建物がある。コンクリート製で箱型の建物で、街の隅に位置する公園に隣接している。防災倉庫と呼ばれている通りにかつては地区の防災用品や備蓄品を収めた倉庫だった。公園に隣接して建てられたのはその公園が地区の…

工房

退職後に趣味で陶芸を始めた人の話。軽い気持ちで始めたところ随分熱中してしまって、ついには山中の空き家を買って窯を設置し、工房にしてしまった。月に十日ほど、一人でそこに籠もって作品制作に没頭するのだという。ところがその工房で頻繁におかしなこ…

傘の下

Mさんが高校生のときのことだ。バス通学だったMさんは、放課後にバス停まで友人と並んで歩いていた。朝から冷たい雨が降り続いていた二月の夕方で、二人とも傘をさしていた。いつものようにおしゃべりしながら歩いていたところで、唐突に友人の話が止まった…

水鬼

高校生の夏、Fさんは友人たちと三人で海釣りに行った。バスで三十分ほどのところにある海岸の堤防に陣取って朝から釣っていたのだが、この日は妙に波も風も穏やかな日で、そのせいなのか何なのか、全く釣果が上がらなかった。以前に同じ場所で釣った時にはそ…

写真週刊誌

Tさんが中学生のときのこと。ある日の放課後、部活動が休みだったのでTさんは友達と遊びに行くことにした。一旦家に帰ってから友達と合流し、自転車で買い物に行く途中。道端の草むらがガサガサッと音を立てたと思うと、バサッと何かが前方の路上に飛び出し…

バックモニター

市内に新規オープンしたスーパーマーケットにEさんが買い物に行ったときのこと。開店翌日の日曜日、流石に客が押し寄せている様子だった。駐車場の入り口でEさんは守衛に止められた。もう満車だから、道なりにもう少し行ったところにある臨時駐車場に駐めて…